インタビュー

「まずは友だちになれたら」
設計者・隈研吾さんに聞く、新県立美術館プロポーザルとこれから

株式会社隈研吾建築都市設計事務所
隈研吾さん インタビュー

2023年1月に行われた新福岡県立美術館整備事業 基本設計プロポーザル最終審査で、隈研吾建築都市設計事務所が最優秀者に選定されました。そして去る4月、県庁を訪れた隈研吾さんに10分間だけ時間をいただき、今回のプロポーザルとこれから予定されているワークショップのことなどについて、お話を伺いました。
【取材日:2023年4月11日|聞き手:三好剛平(三声舎)】
 

福岡県庁11階「福岡よかもんひろば」にて

隈 研吾
建築家、デザイナー。東京大学特別教授・名誉教授。1990年 隈研吾建築都市設計事務所 設立。現在、30を超える国々でプロジェクトが進行中。主な著書に『全仕事』(大和書房)、『点・線・面』(岩波書店)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)ほか多数。1954年生。

 

――改めまして、今回は最優秀者への選定おめでとうございます。

 どうも、ありがとうございます。

――まずはじめに、今回の新県立美術館のプロポーザルでは、どのような点を大事にされたのか、お聞かせください。

 今回の福岡県立美術館は何より、場所が素晴らしいと思いました。大濠公園の一角にあって、日本庭園とも隣接している。そして自然と一体になった場所でもあり、それらをどう活かすかということから考えました。

まず、周りと連動することでこの敷地の良さはもっと活きると思いました。そこで、公園との接点となる部分に大きな庇(ひさし)を出して縁側のような空間でつないだり、美術館の真ん中につくる大きな吹き抜けの空間をそのまま日本庭園とつなげたりするようなプランが生まれていきました。

もうひとつは国体道路側です。現状は、国体道路側に対して建物が壁のようになってしまっているのを、今回の建物で国体道路側に「ひらく」。そうすると、大濠公園の池と国体道路側の近隣がつながって、地域に非常に大きな流れができます。そうした地域との関連も大事にしました。

プロポーザル提案時の模型

――プレゼンの際には、そうした周辺地域との「調和」と、一方で人々がそこをめがけてやってくるような「アイコン性」も意識したと仰っていました。

 あの場所は、そんなに高い建物が建てられる場所ではないので、「横」に広がって日本庭園と池がつながる、水平性を重視したアイコンにしようと思いました。庇というのはもともと日本の伝統的建築においても非常に重要な要素です。その水平の要素をうまく使った、新しい「環境に溶け込んだアイコン」のようなものを目指して、あのかたちになりました。

プロポーザル提案時の模型

――今回のプロポーザルで、もうひとつのお題となっていた日本庭園との調和については、どのように検討されましたか?

 建物に、東西に長い大きな吹き抜け空間を用意して、日本庭園と建物をつなぐひとつの「軸」としました。その吹き抜け自体が色んな使い方が出来る大空間であると同時に、まっすぐ日本庭園とつながっていて、その「軸」を媒介として日本庭園と美術館が一体になることができます。

また、建物の屋上から段々と下がってきて日本庭園に「溶けていく」ような建築として、形態的、環境的な調和を考えました。また、屋上からの庭園の見え方も意識して設計しており、日本庭園とは色んなかたちで連動ができると思います。

――大濠公園に新しい県立美術館ができることで、今後この地域にどのような変化が生まれることを期待されますか?

 いまの大濠公園は、公園としては素晴らしいのですが、周りとの関連ということについては、まだまだ良くなる余地がたくさんあります。

今回の建築によって、周りとつながるきっかけが生まれると良いなと思っています。そうすると、文化という点でまず地域がパワーアップするし、文化以外の活動も活発になるんじゃないかと思います。例えば、いま大濠公園の周りを走ったり歩いたりしている人がもっと増えるかもしれないし、そんなふうに色んな意味でこの場所が、地域の活性化につながるきっかけになればと思っています。

――今回の美術館で、他の国や都道府県にはない「福岡ならでは」の文脈や歴史として意識されたものはありますか?

 福岡というのは、アジアに対して「新しい顔になる場所」だと僕は思っています。だからこそ、この新県立美術館の建築は「県立」という枠を超えて、アジアに向けた日本の顔をつくることであるとも言えます。

日本庭園で日本の文化を楽しむこともできれば、美術館で最先端のアートに触れることもできる。「ここに来れば日本のいちばん面白いものが見られる」とアピールできる場所になれば良いですよね。

――今回の提案で、福岡の人々に向けたメッセージのようなものはありますか?

 今回、福岡県民の皆さんが(大濠公園に新しい美術館ができることに)すごく関心を持っているな、というのをひしひしと感じながら設計していました。

この施設は美術館としてだけでなく、美術以外の人たちも来て楽しめる場所にしたいと思っています。建物の中には大きな吹き抜けの空間や、美術以外にも色んな活動が出来る場所をつくり、屋上に上れば大濠公園や日本庭園を上からの視点で一望できます。子どもも高齢者も、普段美術館に来ない方も、ここに来たらきっと楽しんでもらえますよと県民の皆さんにお伝え出来たら、嬉しいですね。

――今後、完成するまでの間に数回にわたって県民とのワークショップを予定されています。6月上旬にはその第1回目が開催されますが、当日はどういったワークショップになりそうですか?

 第1回目のワークショップなので、大きな目的はまず「知っていただく」ことです。模型や図面だけでは分からない部分もあるかと思いますので、直接お話ししてお伝え出来たらと思っています。皆さんに改めて知っていただくことで、また色んな質問や「こんな使い道もあるかも」といった意見もいただけるんじゃないかと期待しています。

そして何よりもまず皆さんと「友だちになる」ってことが重要だと思うんです。これから県民の皆さんと一緒にこの美術館をつくっていくことがやっぱり大切なことなので、これからお互いに自由に意見を言い合えるような「友だち」になれたら良いなと、今から楽しみにしています。

・・・

1月のプレゼンテーションの中で、海外で美術館を建てた際に、地元の人々がダイレクトに意見を述べてくる様子に驚きつつも、「そういった場面が一番重要だった」とお話しされていた隈さん。 6月から始まるワークショップも、福岡の人々とそうした当事者意識が共有される場となっていきそうです。

ワークショップの詳細については、後日改めて「できるまでサイト」で発表予定です。

どうかお楽しみに!

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