レポート

新県美デザインワークショップvol.2~隈さんと考えよう~【後編】(3/3)

新県美デザインワークショップvol.2~隈さんと考えよう~【中編】からの続き

三好 さてここまでグループA〜Eの発表をいただきました。ここからは、後席の皆さんからお寄せいただいたご質問やご意見に隈さんと一緒にお答えしていくコーナーです。
まずはご覧ください、このボードの表裏を埋め尽くす、ご意見シートの量を!

前回に続いて、今回も僕は皆さんからこれを受け取るたび、この一枚一枚に寄せられたものはひとつだって無下むげに出来ない、本当に大切なものだと感じます。皆さんが思いを持って書いてくださったご意見です。これからの計画に少しでも多く取り入れてもらえるようにと願うもので、まずは皆さん、たくさんお寄せいただき本当にありがとうございます!

さてその中から一つでも多くのご意見を隈さんと一緒に見ていきたいと思います。
まずは1つ目。

ひたすらダラダラしに来たいです♪とくに「ライブラリー+カフェ」
普段、家の中はものが多い、ヒトが多い…など、目が休まらないこともあるので第2の自宅になってほしい!今からあてにしています☆ 深呼吸しに来ると思います。

隈さん、いかがですか。

 こういう人、多いと思います。県美のライブラリーなんて、きっと家と比べ物にならないくらい本も多いし、景色も良いだろうしね。それに、なんとなく人がいるっていうのも良いじゃない?家のなかでひとり本を読んでいるよりは、人がいるところでお茶飲みながら本を読む、みたいな方がね。だから、ずーっと居座る人がいるかもしれない(笑)。まぁそれは運用の問題だけど、そこで仕事をしたいっていう人もいると思うんだよね。家にいるよりは人がいるところで、美術館なら無料だからと、ここへ仕事をしに来る人も多くなると思う。気持ち良いものをつくればつくるほど。でも、それも美術館の活気を作るものだし、そういう人たちを美術館の活動にどう取り込んでいくかという点も、これからのテーマになってくるような気がするなあ。

三好 たしかにここ数年、日本各地で新しく出来る公共の文化施設には、たいてい学生や仕事している人たちが自由に使えるスペースがあります。そこへ普段から通って使い続けることで、場自体への愛着が生活にまで馴染んでいく、というようなことはあちこちで起きていますよね。それに隈さんはご提案時からずっと、この美術館が「居間のような空間になれば」ともおっしゃっていました。

 あと、会員制みたいなものをどうするかという点も、今後の運用サイドには大きなテーマになるんじゃないかと思う。たとえば会員になって、費用を負担してくださる方は優先的に施設の利用がしやすくなったり、待たずに使えたりとか。美術館のビジネスとしても、そこは重要なものになるかもしれない。どんなことを組み合わせて運用していくのか。

三好 このご意見でライブラリーに触れられたのを見て、ああそういえば、と思い起こしたのは、福岡県立美術館が1964年の開館当時には、図書館と美術館が併設した文化会館としてその歴史をスタートさせている点です。そうした歴史を踏まえて、新県美がもう一度図書館機能も充実させることで、再び多様な人々に利用される施設になっていくという未来も素敵だな、と思いました。

さて、続いてのご意見です。

仕事帰りの散歩ついでに、アート鑑賞をしたい。赤坂から六本松まで歩いて帰るときに、大濠公園を通り抜けますが、特に国体道路に向かう道は暗くて寂しい印象です。アーバンスリットを抜けるときに、ちょっとしたアートが見れる、たまに展示が変わると楽しめそうです。

隈さん、このご意見についてはいかがでしょう?

 これはすごく重要ですよね。アーバンスリットは入場料も取らずに通り抜けが出来る場所になる。そこにギャラリー的な機能を持たせていれば、もしかしたらそこが一番人の目に触れるギャラリーになるかもしれない。そんな場所に、どんな展示をするか?月ごとに展示を変えてみたり、絵画や彫刻だけでなく、それこそメディアアート的なものを展示してみたり。結構な長さのある通り抜けだし、こんな体験を提供する場所に展示が出来る美術館もそう無いと思う。この使い方はとっても大事なものになると思いますし、これからぜひ考えたいですね。

三好 国体道路側には「けやきギャラリー」、公園側には「草香江ギャラリー」を設けるご予定でもあるわけですから、いわばこの通りを抜けるにあたっては、入口から出口までずーっとアート的な体験ができる空間、通りになるわけですよね。

 それにここは庇もかぶっているから、濡れないでずっと歩けるわけだよね。ここもひとつ、売りになりそうだね。

三好 僕は子育て世代なんですが、公園のなかで日陰になる場所って本当にありがたいんですよ。そんなことからも、ここはいろんな展開へのポテンシャルがある場所だと思いました。素敵なご意見をどうもありがとうございました!

さて続いてのご意見です。

雨やどり、休憩スペース(ジョギング等) 最近の建物は急な雨の時、雨やどりできる庇が無いので観光客にも優しいスペースとなると思う。

来ました!まさしく先ほど触れたばかりのお話ですね、隈さん。

 本当に。こういうことですよね。

三好 さぁ、どんどん行ってみましょう!続いてのご意見です。

新県美の特色は日本庭園との再編・融合にあると思います。そこを全面に打ちだすメディアヴォイドのあり方を基点としてはどうでしょう。日本の福岡らしく差異化が図れると思います。県美を築山とするか、借景に見立てて、一幅の絵を描くイメージです。

なるほど。隈さん、これはいかがですか?

 まさにご指摘いただいた通りのイメージです。今日、皆さんにはメディアヴォイドの中のことを考えて頂きましたけど、その伸びた先の日本庭園とどう融合させるかというのは、すごく大切なテーマです。たとえば日本庭園の池の淵にステージを仮設することでメディアヴォイドから日本庭園までを繋いでみたり、映像を使って両者を連動させたりしてみるのも面白いかもしれない。「日本庭園と一体の美術館」という、他には出来ない新県美だけが持つ価値を打ち出せるんじゃないかな。

三好 プロポーザルの際にも、隈さんのプランはその他の提案にも増して、日本庭園と美術館が直接的な関係を結ぶプランになっていることが評価を集めていました。施設で体験する時間や質が、日本庭園でのそれとどのように結ぶことが出来るかという点が、やはりこの美術館の大きなポイントになりそうです。

 そうですよね。今の計画では、メディアヴォイドの端っこから、ガラス貼りの企画展示室、そして日本庭園の体験までを一続きに連動させるような展示も出来るプランにしています。これだけ大きなガラスの間口があるわけだから、それも生かした面白いことができる気がするね。

三好 この庭園に向かって開いた大きなガラス面が、景色を切り取るフレームになるわけですね。

 そう。さらにその上に乗っかっている屋上も、日本庭園の景色と連動して一体になっていく。そういう一体感も意識しながら、使いやすいデザインをまた考えていきたいと思います。

三好 楽しみですね。さぁ、まだまだお時間の許す限り、皆さんのご意見をご紹介していきます。どん!

・広い空間を利用した大きな展示をする。
・プロジェクションマッピングなどで、視覚的にこどもたちも楽しめる空間に。
・人が集まるイベントスペースとして活用・展示・販売etc 地域の人が出店して交流の場にする。

というご意見をいただきました。

 実際、展示室はそれぞれに分かれてるけど、1室1室はかなり広いんですよ。だからそれだけでも十分広い展開は出来るけど、この美術館の大きな売りは、展示室同士がぜーんぶ一直線上に繋ぐことも出来る点です。だから、こうして全体を連動させての企画も可能ですし、スペースとしてもものすごく広く感じてもらえると思うな。

三好 フレキシブルに空間の使い方が変えられるのは、魅力ですね。

 メディアヴォイド自身も、ものすごく長い空間だから、その特徴を活かした面白いイベントとかも出来ると良いですよね。1階から上階まで、メディアヴォイドを含めた展示を考えてみると、すごい壁面が取れるし、天井も高い。

三好 アーティストや美術作家にも意見を聞いてみて、どういうかたちだとより使いやすいか、というのも聞いてみたいですね。

それでは続いてのご意見です。どん。

「倉庫のような美術館」大賛成です! 多様さと軽さ(格式・形式的)が福岡の魅力だと思います

 使い方のフレキシビリティを考えると、倉庫のような空間というのが、方向性としても合っているなと感じました。それに、やっぱり「格好良い倉庫」と「格好良くない倉庫」というのがあるじゃない(笑)? ただのフレキシビリティだけじゃなく、どうデザインされているかという点もこれから詰めていきたいな、と思っています。

三好 「倉庫」というキーワードから僕も連想したものがあります。これは今回の新県美には難しいアイデアかもしれませんが、オランダには、美術館が収蔵および寄贈・寄託で預かっているコレクションのすべてが、展示されながら保管されている「見せる収蔵庫」のような新しい美術館があったことを思い出しました。

 そうだね。パリのケ・ブランリという美術館も、倉庫がガラス張りになってて、収蔵保管されている作品も見られる仕様になっていたと思う。今回、収蔵庫は高潮ラインへの対応から施設上階に設置したので、ヴォイドのなかでそれをやるのは難しいかもしれないけど、収蔵庫にそういう発想を何かしら取り入れることが出来ないかと考えてみるのも、面白いかもしれませんね。

三好 さて、続いて本日最後の1枚です。

☆キッズスペースに、「おもちゃや遊具、絵本」ほしい
☆レストランに、「ごぼう天うどん」など、福岡ソウルフードを食べれるようにしてほしい。
☆グリーンルーフに、夏遊べる「シャワー、ふんすい」
☆大濠公園、実際に歩かれた感想

ということです。こちらは隈さんいかがでしょうか。

 いっぱい出ましたね(笑)。キッズスペースをどうデザインするかは重要ですね。やっぱり美術館らしい、アートのいちばん最先端を体験出来るキッズスペースとは何かとか、美術館ならではのキッズスペースを考えなきゃいけませんね。大切なテーマです。

そしてレストラン。そういえばさっき、グループの発表で陶芸に触れてくれていたのをスルーしてしまっていました。九州には良い陶芸がたくさんありますよね。そういうものをショップではどう手に取ってもらい、販売出来るか。そしてレストランの食器としてどのように展開するかなどは、これから考えていくのが面白いポイントのひとつだと思います。

三好 福岡県美は、伝統的な陶芸や古陶磁など福岡県内の工芸も多数コレクションとして収蔵しています。そういうものの展示と連動してレストランも展開したり出来ると良いですね。

 あと、またしてもシャワーが(笑)。ニーズがありますね。

三好 そうですね。そしてごぼう天うどんもありました。隈さんは、ごぼう天うどんはもうお召し上がりになりましたか?

 もちろん!大好きですよ。

三好 福岡の人には、それぞれにお気に入りのごぼう天うどんのお店があるはずなので、そこはまた今度の機会にでも調査してみましょう(笑)。

ということで、ここまで本当に皆さんたくさんのご意見をありがとうございました!もう一度お伝えしておきますが、今日この場でご紹介できなかったご意見についても、必ずスタッフがすべて目を通し、今後の計画のための貴重な材料にさせていただきます。
たくさんのご意見を皆さん、本当にありがとうございました。


ということで、トークは終了。その後、vol.1同様、今回も結束の強まった来場者一同で「チーム新県美」としての記念撮影をパシャリ。

そして最後に隈研吾さんからご来場の皆さんへコメントをいただきました。


 改めて今日も本当にありがとうございました。今日もこうやってお話をしながら確信しましたが、実はもう新県美は始まっている、ということなんですよね。

皆さんは、建物が出来るまでは美術館は始まらないと思うかもしれませんが、実はこういう活動こそが、美術館の活動なんです。そしてこの活動も、ひとつずつアーカイヴされて残っていきます。皆さんは既にもう、新県美に参加しているわけです。

この調子で、ずーっと建物の完成まで、そして完成した後にも、こうしてみんなで県美を盛り上げていくことが出来れば、きっと新しいタイプのミュージアムが福岡から発信できることになると思います。今日も本当にありがとうございました!


というご挨拶にてワークショップvol.2は終了。

回を重ねるごとに熱気を増していくワークショップ。これから実施設計のフェーズに入っても、引き続き県民の皆さんと一緒に新県美を考えるワークショップを実施できるよう、準備を進めていきます。どうぞご期待ください!

※ふせん紙のご質問、ご意見は原文ママ掲載しています。

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