レポート

新県美デザインワークショップvol.4~隈さんと佐藤さんと新県美~【後編】(2/2)

新県美デザインワークショップvol.4~隈さんと佐藤さんと新県美~【前編】からの続き

隈さんと佐藤さんが語り合うデザインの話

前編から15分の休憩を挟んで、進行役の三好剛平さん(三声舎)の声がけでワークショップ再開です。休憩中に募集した、参加者のみなさんからのコメントやQ&Aを集計している間に、まずは隈さん、佐藤さん、三好さんによるトークが繰り広げられました。

三好 前半のお二人のお話で、隈さんも佐藤さんもお互いに対して「その場、その対象にふさわしいものを引き出し・導いていく建築家、デザイナーである」という部分に信頼の根幹があるように思いました。そこでご質問なのですが、お二人は、そのような対象となるものや場の本質を、どうやって見つけ、掴み取っているのでしょうか?

 (建築を依頼される時)やはり最初は「言葉」での要求になるんですね。 大体どの美術館も同じで、何平米で、企画展示室がいくつで……という感じで、それだけだとやっぱり無味乾燥な数字に過ぎない。でも僕は、建築の場合は「場所」というのがすごく大事な気がします。その場所を歩いてみると、どんな人が住んでいるとか、どんな人が歩き回っているとか、その感じがわかりますよね。それがすごく大事。だから実は「場所=人間」であって、それを感じる感性みたいなものが建築家には必要だと思います。みんなよく建築の「センス」とか「美意識」とか言うけど、それ以上に、人間観察みたいな能力が大事な気がしています。

佐藤 いまのお話に重なるところがあります。自分の場合はそれが大量生産品だったり(シンボルマークも含むような)クライアントのアイデンティティに関わることだったり、いろんなケースがあるんですけど。どういう環境に自分が置かれているのか。それを、いま隈さんがおっしゃったように、そのものの周辺で多くの人がどう感じているのか、多くの人にとってそれがどういうものなのか、そこにはどんな歴史があるのかなど、いろんな角度から調査をするんですね。あとは話を聞く。やはり自分がいくら調査しても分からないことがたくさんありますから。そもそも依頼者がどういう風に考えていて、どんなものを求めているのか、ということももちろんあります。ただそれをそのまま形にするだけでは、なかなかふさわしいものにたどり着けないので、その環境と照らし合わせて、求めてらっしゃることがそもそも的を射ているのか、少し調整をしなきゃいけないのか、などいろいろ探っていく。

そこでデザイナーの課題になってくるのが「自我」なんですよね。「やりたいこと」っていうのがすぐ出始めるんですよ。私も悟りを開いているわけではないので(笑)、やっぱりつい、自分のやりたいことが顔を出す。でもその時に、顔を出したことに気が付けるかどうかが重要です。それに気が付いて、抑え込む。そして外に耳を傾ける。そこに格闘があります。

三好 お二人とも、まずデザインのためのデザインをしないこと、そしてそのものや対象をいかに澄んだ目で引き取れるかということを意識されていることが理解されます。また、対象からだけではなく、そこをめぐる人の反応や感性的なものもたくさんインストールして、かつそれを自分の思いだけで突っ走るのではなく常にバランスも探りながら、ふさわしいものを見出していく。そういうプロセスを重ねていらっしゃるんだな、と感じました。

佐藤 「澄んだ目で」って素晴らしい言葉を使いますね。とかく濁るんですよね。いまは世の中の情報が山ほど入ってきて、ほっとくとすぐ濁りがちになりますから。

三好 佐藤さんは、これからまさしく新県美に関わるデザイン作業に着手されるところかと思いますが、今はどんなご準備や作業を始めていますか?

佐藤 まだまだこの地域について勉強しなきゃいけないこと、知らなきゃいけないことが山ほどありつつも、今まで入ってきた情報を基に、「こんな考え方があるかもしれないな」というスケッチはもう始めています。そこにはいろんな考え方があるんです。

例えば今、新県立美術館を「新県美」とおっしゃいましたが、例えばニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art, New York City)は「MOMA(モマ)」という愛称で親しまれ、ロゴにもなっています。例えばそういう愛称を作るという考え方だったら、ここの美術館はどういう愛称になるのかな、と考え始めるわけです。「福岡」だから「F」から始まるかな? でもFから始まる言葉ってね、なかなか難しいんですよ。さらに「県」ですから「prefecture」となると「FP」でもう読めない。そういうことを一人で悩むわけです。 「新県美」というのも、今まで「県美」と呼んでいたからだと思うんですけど、「県美」というのは他の県にもありますから、これではアイデンティティにならない。じゃあ愛称をロゴにするとしたら、どこら辺に可能性があるのかな、ということを考えるのも、一つの方向性ですね。

それ以外にも、目の前に公園があって池があって、という環境も一つありますね。ですがそれも、(隣接する)福岡市美術館のほうでもアイデンティティにしていたりするから、私たちはそれは使えないだろうな、とかね。いろんな角度から考え始めています。そういうものをいくつも出したうえで、私が大切にしてるのはディスカッションなんですね。私は「これしかありません」という提案の仕方は、今まで一切やったことがないんです。違う考え方のものを複数出して、どの考え方が選ばれるのか。最終的には県に判断していただくことになると思いますが、そのためのスケッチを考えるのが面白いんです。仕事は、好きでやっているので(笑)。

 ここまでのめり込んでやってもらえるって、いいでしょ?(笑) そのうえで僕が今日、もう一つ話したかったのは、この地域全体で、情報の整理がもう少し必要じゃないかなという点です。新県美では情報センター(インフォメーション)を作る予定ですが、すぐそばには今私たちがいる能楽堂があり、福岡市美術館もある。そういう環境で、エリア全体がどういう風に見えるか、ということを考えるのが大事です。実際にどういう風にサイン計画などに落とし込んでいくかは別にして、そういうことも佐藤さんと一緒に考えたいと思っています。 こんな風に、一つのシンボリックな「池」を中心に文化の拠点が集まっている場所は、全国にもあんまりないと思うんですよね。それを一つの文化拠点として発信できると、全体にとっても大きなプラスになると思う。福岡がまた大きく飛躍するきっかけになればいいなと思うし、そういうことも一緒に考えてみたいと思っています。

三好 新しくできるものを「点」として生み出すのではなく、やはり既存の”場“や“環境”も交えた「面」として成立するところを探るのが重要なんですね。

参加者のみなさんからの質問とその答え

ここで、休憩時間に参加者のみなさんから回収した「私にとってデザインとは〇〇です」のコメントとQ&Aの整理が完了。そこからいくつかをピックアップして、隈さんと佐藤さんにぶつけていきます。

最初に紹介されたのは、「私にとってデザインとは”人の心をつなぐこと”です」とお答えされた方からのご質問です。「デザインをするためには、ものの見方や世の中を広く知ることも大切なのだと感じ、お二人の視座の高さに感激しました。現在の美術教育にデザイン教育を足すなら何が必要だと思われますか?」

佐藤さんはこれに対して「まずはそもそもデザイン教育が必要なんじゃないですかね。教育って、小学校で言えば国語、算数、理科、社会とバラバラになっているわけです。でも現実の世の中では、それらは全部繋がっているんですよね。数学だって言葉を使いますし、国語を使って算数を勉強する。だけど全部バラバラに勉強することになっているわけです。この縦割りは非常に便利だから、明治以降いろんなものがそうなっているのですが、本来は全部横串で繋がっています。デザインの授業では、そこを繋げることができるんです。全部の要素を繋いで、『全部繋がっているじゃないか!』と気が付いてもらえる授業ができると思う。バラバラになっているものを「デザイン」という授業で束ねる。そこにものすごい可能性を感じます。国語、算数、理科、社会をやって、将来何のためになるのかと思いながら勉強してる子もいると思うのですが、これはそれぞれが結びついていないから役に立たないように見えるのではないか。でもそこが繋がることによって、こんなに面白くて役に立つんだ、ということに気づける。そういう教育が小さな頃から受けられると、世界に誇れる教育になっていくんじゃないかと思います」 と語ってくださいました。

続いては、「私にとってデザインとは”ニヤリとすること”です」という方からのご質問です。「県美(アート)が市民の日常になるには何が必要ですか?」

この質問に対して隈さんは「新県美では県民と繋がる場所として、”縁側”を両方に設けています。例えば大濠公園側には、こどものためのスペースをつくります。通常、こどものためのスペースってこんなにいい場所にはなくて施設の奥まったところにあることが多いんです。でも新県美では一番ビューがいいところに持ってきて、外の日常と繋がる場所にしていく予定です。それに、ワークショップのスペースもいいところに設けているんです。そうした県民の生活と繋がりを生み出すようなスペースをどう運用していくか、はとても大切です。僕もデザインの方面からなるべく繋がりが生まれやすいように色々考えますから、その運用の仕方も一緒に考え合わせていきたいですね」と話します。

ここで隈さんが、佐藤さんが携わるNHKの番組「デザインあ」のようなこともここでできたらいいなと思っている、と明かすと佐藤さんは「やっぱり人って『面白い』と感じるものに惹かれます。もちろん、特別な思いがなくてもふらっと訪れられる場所、落ち着ける空間も必要です。でもやっぱり、自然に、無意識にも惹かれてしまうような魅力、というものはどう準備ができるか?そこを探っていきたいです。建築ではそれを前提に検討された空間ができるはずですから、私はコミュニケーションデザインとして、新県美が日常に当たり前に溶け込むような場所になるように、考えを進めてみたいと思います」と語りました。

続いては「私にとってデザインとは”ファーストインパクト”です」という方からのご質問です。「私はいま小学校で働いていますが、佐藤さんのお話の最後にあったデザイン教育について、専科として実現できることを期待しています。その時は自分が教える側になりたいと思いますが、そのためにはどのような学びが必要ですか?」

佐藤さんは、「教える側になるためにどのような学びが必要か……。デザインという概念はすごく広いし、特に21世紀になって余計に広がったと言えます。“もの”だけではなくて“こと”、目に見えない仕組みや新しい関係性を作るとか、そういうこともデザインに入ってきている。デザインの概念というと、昔は何かかっこいいものだったり、特別なものだけに携わっているような印象を持たれてましたが、実は当たり前の日常のありとあらゆるところがデザインで成り立っています。そういうことに気が付くと、デザインという概念はどんどん広がっていくんですよね。だから、『ここまで勉強すればわかる』ということではもうなくなってきています。なのでなかなか難しいご質問ですが、これを学べば先生ができるということではなくて、まずはご自身で、なにかに関して詳しく入っていくことは良いかもしれません。いろんなポジションの人たちがデザインのことを語れるようになればいいですよね、簡単ではないとは思うんですけど」と説明してくださいました。

続いては「私にとってデザインとは”祈り”です」という方からのご質問で。「新県美の周辺は特徴のある環境に囲まれていますが、美術館を作ることでそれらや街に、どのような影響が出ることを期待しますか。是非、お二人の周辺の街に関する認識も聞いてみたいです」

これを聞いて隈さんは「まず、“祈り”というのが面白いなと思いました。さっき『アーバンスリット』『メディアヴォイド』を紹介しましたが、その軸線の向こうに自然があるのは、祈りの空間と同じ構造なんですよ。例えば神社なんかでも、参道があって、そのまっすぐ向こうに軸線を強調するような鳥居があって、その向こうには山があって……、みたいな空間の基本構造があるわけですが、かなりそういうものに近い。もちろん開放的で親しみやすい空間なんだけど、真ん中に二本ある軸(アーバンスリットとメディアヴォイド)の向こうに、キラキラ輝いている水面や、緑が神聖なお庭がある。そういう感じはこの空間に、ある強さを与えてくれるような気がします。『ここに来るとなんかくつろげるし、なんか心が癒される』と感じられる空間を作ろうと思っているので、ぜひそんな風に街の中で機能してほしいですね」と回答。佐藤さんは街の環境について「私は東京の人間なものですから、まずこの大きな池を知らなかったんですよ。驚きました。その周辺に文化が根付いていることも。水って、いろんなものとくっつきたがる性質を持っているんですよね。まるでこの池の水が引き寄せるかのように、いろんな文化を引き寄せているというイメージを今持っています」と話しました。

続いては「私にとってデザインとは”生活に色を与えてくれるもの”です」という方からのご質問です。「どういう時に建築やデザインのアイデアが浮かんでくるのですか?」

これに隈さんは「アイデアはね、一人でこもっていてもダメだってのが僕の考えです。デザイナーとか建築家って、一人で暗い部屋にこもってやっているようなイメージを持っている人がいるけど、実は対話をしている時が一番イメージが湧くものだと思っているんです。ミーティングをするなら、気楽な仲間と、多くても5、6人で、できればなにか物(雑談のネタ)を置いて対話をしてみる、というのが一番いいと思います。そうするといろんなアイデアが浮かんできます。一人にならないことが、僕にとって大事なことです」。佐藤さんは「いろんな考え方をまず出してみる。さっき隈さんが言った”物”に代わるのが、私の場合はグラフィックだったりします。自分だけではなくて、スタッフと一緒に考えて、お互いに出して、いいものを選んで。そしてクライアントやいろんな人ともそれを元にまたディスカッションして……、と繰り返していく。デザイナーって何かを生み出していると思われがちですが、実際は生み出すというより“繋いでいる”感覚です。適切なものをどう繋ぐか。そこにはもちろんデザインスキルも必要なんですけど、その繋ぐことが見えた時が、いわゆるアイデアが思いつくということなのかな、と思います」

ここで時間がきて、終了です。ワークショップの締めくくりとして、隈さんからは「こういうかたちで、サインやデザインをてがけるデザイナーも交えて、事前にディスカッションをするなんてことは本当に初めてです。もしやるとしても建物がある程度出来上がった後だと思うんですが、 新県美ではこの段階から、皆さんをある意味巻き込んでしまって議論を始めている。これは面白いことだなと思います。普段の美術館なら、サインが完成してもそこまで注目されないことだってあるかもしれませんが、今回ばかりは、さすがにすごい注目されると思うよ(笑)」とコメント。佐藤さんも「建築家の隈さんや県民の皆さんと、こんな風に事前からディスカッションをさせてもらえたのは初めてです。いい意味でプレッシャーをいただいて(笑)、ありがたく思います」と笑顔。最後にはゲストのお二人と来場者全員による恒例の集合写真撮影を経て、ワークショップは幕をおろしました。


ワークショップを終えて

以下は、ワークショップ後のお二人の感想です。

 建築が完成する前から、建築家だけでなくデザイナーまで一緒になって、街の皆さんと交流型のワークショップをやるなんてのは、僕がこの仕事を50年やってきたなかでも、初めての経験でした(笑)。ただ、これからの時代は、建物やグラフィックそのものだけでなく、その過程や情報も含めてアピールしていく時代だと思いますので、今日の取り組みは非常に象徴的なものだったと思います。

佐藤 私にとっても初めての経験です。やっとここから具体的な制作作業に取り掛かるというような早めの段階にもかかわらず、いろんな方のご意見をオープンに聞かせていただける機会になりました。通常ならこういうプロセスは内々に進められて、こんな風に公開されることも滅多にないものですが、こんな初期の段階から多くの人と共有させてもらえて、制作もそれに合わせながら進めていくことになるのは、私にとっても初めての経験です。かなり有意義な時間だったと思います。

さらに隈さんは「早い時期からこんな風に密に話ができたから、ただ建築のロゴを作るだけじゃなく、この地域全体を情報の力で再編集するというようなことをしたいですよね。大濠公園の周りにはいろんな文化施設が集まっているから、かなり発信できることがあると思う」と付け加えると、佐藤さんは「本当にそれができたら嬉しいですよね。新県美のデザインをしながら、このエリア全体としてはどうあるべきか、というところも考えていきたい。せっかくこんなに素晴らしいエリアなので、そういうかたちでもご一緒できたら嬉しいです」と、新たなアイデアとともに、ここから4年間に向けた意気込みを語ってくださいました。


佐藤さんという新たな仲間も加わってもらえたことで、いっそう熱量の高まったデザインワークショップ。次回の開催もご期待ください。

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