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レポート
新県美デザインワークショップvol.4~隈さんと佐藤さんと新県美~【後編】(2/2)
2026.09.19
2026.09.19



2025年12月14日(日)大濠公園能楽堂にて「新県美デザインワークショップvol.4:隈さんと佐藤さんと新県美」を開催しました。
2023年からスタートした新県美デザインワークショップ。4回目となる今回は、設計者の隈研吾さんから最新の設計進捗状況をご紹介いただくとともに、新県美のシンボルマーク、サインデザイン等を手がけるグラフィックデザイナーの佐藤卓さんにもご参加いただき、抽選で選ばれた約300名の参加者と共にデザインに関するディスカッションを行いました。
前半は、隈さんと佐藤さんそれぞれによるプレゼンテーション。後半は、参加者から募集した「私にとってデザインとは〇〇です」というコメントも交えながら展開。さまざまな意見や質問が飛び出しました。

開幕の時間を迎えると、まずは進行役の三好剛平さん(三声舎)から、これまで3回にわたって行ってきたワークショップ「隈さんと語り合おう」「隈さんと考えよう」「隈さんと歩いてみよう」のおさらいと、今回のワークショップの趣旨の紹介がありました。

また、主催者を代表して福岡県人づくり・県民生活部の浦田智子部長が挨拶に立ちました。浦田部長は、今回の定員を上回る応募へのお礼と、そこに新県美への期待の高さを感じていること、さらにこれまでのワークショップにご参加いただいた方々の意見やアイデアが新県美の基本設計書に反映されており、今日のワークショップもその姿勢で臨むと述べました。
そしてお待ちかねの、隈研吾さんと佐藤卓さんの登場です。

隈 ワークショップも4回目ということで、今回も会場の皆さんといろんなお話ができたらと思います。今回からお迎えする佐藤卓さんは、コミュニケーションの天才です。職業こそグラフィックデザイナーでいらっしゃいますが、その根幹では、どんな風にして人々とその心とコミュニケーションができるか、というようなことをいつも考えている。人の心をすごくよくわかっている方なので、佐藤さんの作ったものは突き刺さるし、温かい。ですから新県美も佐藤さんでお願いしたいと思って相談したところ、佐藤さんがやってくださるということになりました。今日はそのお話ができればと思っております。

佐藤 はじめまして、佐藤卓と申します。新県美のシンボルマークやデザインのお話をまずは隈さんからいただいて、大変光栄で、喜んでお引き受けさせていただいた次第です。 とはいえ今、隈さんから……そこまでおっしゃっていただくと頭も手も動かなくなりそうな感じなんですけれども(笑)。僕自身、できるだけ皆さんのお考えや思いを理解したうえでこの仕事に関わりたいと思っておりますので、今回こういう機会にお声がけいただけて大変感謝しています。 本日はよろしくお願いいたします。
こうしてお二人のご挨拶を終えた後には、早速前半の「第1部:プレゼンテーション」として、隈さんと佐藤さんによるそれぞれのプレゼンテーションが始まりました。
ここではそのプレゼンテーションのダイジェスト版をご紹介します。

隈 この話はこのワークショップで何回もしているので、既に聞いたよという方もいらっしゃるかもしれませんが、改めて。まず新県美には、街と公園をつなぐ「アーバンスリット」、 それから「メディアヴォイド」があります。
アーバンスリットは、「つなぐ」ということを大きなテーマとしています。今までは、大濠公園と街が切れているイメージが強かったので、それをつないでみよう、と。そうするともっと街全体に回遊性ができて楽しい街になるんじゃないかということで、僕らはその「つなぐ」を大事にして、このスリットを提案しました。車ではなく人間が歩くためのストリート性を重視して、設計をしています。

もう一つは「メディアヴォイド」と名付けた吹き抜け空間です。これが隣接する展示室や多目的ルーム、ワークショップスペースなどを巻き込みながら1階から建物天井のトップライトまでを垂直につなぐ役割を果たしています。
メディアヴォイドの中で美術館の中心を見上げると、天井から光が入ってきて、非常に巨大なアートも吊るせるようになっています。これだけの高さのある空間は、全国の県立美術館でもあまりない空間になると思います。 ただ立体的なものが吊るせるだけじゃなく、映像的なものやイマーシブなこともできるようになっています。 美術展示モードやイベントモード、いろんなことができますよ、ということですね。
メディアヴォイドはガラス張りになっていて、外から様子が見えるので、「面白いことやってそうだな」とついつい入ってきてしまうようなものになると思います。

美術館というのはそのように、ハコの中だけで完結するものではありません。 ハコの外との間の境界領域、日本語で言うと縁側領域みたいなものを大事にしようというところで、「ケヤキギャラリー」と「草香江ギャラリー」という二つのギャラリーも用意しました。
簡単ですが、以上です。(※新県立美術館の建築計画についての隈さんによるレクチャーはこれまでのデザインワークショップレポートでも詳しく紹介しているため、本記事ではコンパクトに掲載しました)

佐藤 佐藤卓とは一体誰だ?という方もいらっしゃると思うので、自己紹介をさせていただきます。これまで長年、デザインの仕事をしてきました。 皆さんの身近なもので自分の仕事を紹介させていただくと、まずは「明治おいしい牛乳」のデザイン。初めて発表してからもうすぐ25年ぐらい経ちますが、ほぼデザインを変えずに売られ続けています。こういう日常の、当たり前に存在するものがどうあるべきか? ということを長年考えてきています。

こういうものは、まず中身が新しい技術によって生まれていることが前提です。そして「おいしかったからまた買おうかな」と冷蔵庫や食卓に乗った時に、10年、20年経っても飽きない存在と言いますか、これはこれだよね、と許していただけるような新しいスタンダードになるためにはどうあるべきか? なんていうことを、クライアントの人と一緒に話し合いながらデザインしています。また、一度デザインしたものについても、メンテナンスは続けています。納品して終わり、ということではなく、有り難いことにクライアントとずっと一緒に育て続けていくようなお仕事が多いですね。

ロッテの「XYLITOL(キシリトール)ガム」は28年前に発売されたものです。これもほぼデザインが変わっていません。もともとガムと言えば「歯に悪い」というイメージでしたが、キシリトールガムは「歯にいい」もので、つまり180度イメージが変わるんですね。大げさに言うと、ガムの歴史が変わるということです。こういう、中身が画期的なものっていうのは、外側も画期的でいいんです。 なかには、中身に新規性もないのに外側ばかり画期的な風に仕立てるデザインというのも少なくないわけですが、そういうものはやっぱり、あっという間に世の中から消えていきますね。期待したほどではない、と一度思ったら、みなさん次はもう買わなくなっちゃいますから。
このキシリトールガムに話を戻すと、極端ですがこれは歯磨き粉のチューブをデザインするようにして、ガムのデザインをしました。本来ならこのデザインは、一般的な「口に入れたくなるようなデザイン」ではないんです。いっそデンタル(歯科)の世界に近いものと言ってもいいかもしれません。シンボルマークについても、当初クライアントからつけてくださいと言われたわけじゃなくて、デザインしながら「あったほうがいいんじゃないか」と思ってつけたものです。というのも、ガムは通常、コンビニやスーパーマーケットだと横向きに置かれるんですが、駅の売店などスペースがない場所では縦に差し込まれる。つまり縦に詰め込まれて、頭のところしか見えない状態で売られるわけです。ところがこのマークは、縦でも横でも同じ形に見えますし、遠くから見てもぱっと分かる。物自体はちっちゃいんですけれども、全国どこにでも置いてあるような、そういったものがどうあるべきかということを考えました。

今回、シンボルマークやサインのお仕事でご一緒させていただくので、もうちょっとだけシンボルマークの話をします。こちらは東京・上野の「国立科学博物館」のシンボルマークです。
これは「想像力の入口」という言葉(キャッチフレーズ)とともに 提案させていただいたものです。これを見た人は「なんだこれ?」と思うはずです。わざと、ちょっとわからないようにつくったんです。というのも、国立科学博物館っていうところは想像力を育むところであり、またこれからの未来を作っていくのもまさしく想像力なわけですから、そういうものを育む入口。つまり「想像力の入口」なんじゃないかと思ってこうしたわけですね。

実を言うとこのシンボルマークのモチーフは、恐竜の上顎の歯です。私が小さい頃、親に上野の国立博物館に連れられて行った時、ロビーに恐竜が置いてあって、それがT・レックスで、ガーッと口を開けていて、それを見上げたときに「すごい!」と思った記憶が刷り込まれているんです。それが一つのアイデアになって、上顎の歯をモチーフにしました。でもそれを説明的には作らない。「言われてみればそうかも…?」という塩梅を目指して、 「花火が上がっている」とか「花びら」とか、あえていろんなことを想像してもらえるようなレベルで、デザインを仕上げています。想像力を掻き立てるようなシンボルマークです。

続いてこれは「金沢21世紀美術館」のシンボルマークですね。これは建物を真上から見たところをそのままシンボルマークにしています。丸いかたちの建築で、部屋もこの通りにレイアウトされています。はじめて建築図面を見たときに「もうここにシンボルマークがあるじゃないか!」と思いました。 ですからデザイン自体は建築図面そのままではあるのですが、私はそこから線の細さなど、細かいディレクションや調整を頑張らせてもらいました。仕上げる時って、意外と神経を使うんです。

こちらは、東京の六本木にある「21_21 DESIGN SIGHT」。東京にいらっしゃった時はぜひお立ち寄りいただきたい施設ですけれども、私はここの館長を仰せつかっておりまして、立ち上げ以来、いろんなテーマで展覧会をしています。主にデザインの展覧会をする場所なのですが、デザインというものを広く捉えているので、例えば虫をテーマにした展覧会も行ったりしています。 自然界というのはデザインのお手本である、という考え方ですね。ここでは以前に隈さんにもご参加いただいて一緒に展覧会を作らせていただいたこともあります。またこの「21_21 DESIGN SIGHT」という名前も、三宅一生さん、そしてプロダクトデザイナーの深澤直人さんと一緒に考えました。視力検査をする時に、しっかり見えている状態を「20_20」って言いますけれども、それは見通しが良い、いわば「パーフェクトサイト」なのだけど、これは「21_21」。デザインの視点で、さらにその先まで見てみよう、という意味を込めました。
さらにもう一つ。NHKのEテレの「デザインあ」というテレビ番組作りを2011年から続けています。僭越ながら私は、こどものためのデザイン教育というのが、これから絶対に大切なんじゃないかと思っていまして、そのことをNHKの人と話し合いながら、番組を立ち上げました。さらにそこから、番組を展覧会にしてみたらどうだろうか? と思いつきまして、NHKに相談して「デザインあ展」という展覧会も開催しました。日本全国を巡回して、多くの方々に来ていただきましたね。いわゆるデザイン教育はこどもの頃から必要なんじゃないか。ゆくゆくは、小学校高学年には1週間に1コマぐらい「デザイン」という授業が生まれてもいいんじゃないか? というような、そんな思いも込めて、こういう活動をしている人間です。

佐藤さんのプレゼンテーションを聞き終えた隈さんは、「佐藤さんのやられているものはこれまでずーっと見ていますが、普通のグラフィックデザイナーの職能を超えたものをやられているな、という風に思います。かっこよさを追求するのとはまた違う、もう少し『人間の認識とは何か?』とか『学習とは何か?』とか、そういう人間の本質的なところに突っ込んでいく。でもそれが全然重くなくて、軽やかに人間の本質を見せてくれる。そこがすごいところだなと思っています。新県美には、そういった佐藤さんの視点を注入してもらえるといいなと思います。普通の美術館にないようなもの。そしてやはり、こどもというのもすごく大きなテーマになりますよね。若者やこどもがどういう風にしてデザインに関心を持つのか。デザインに関心を持つということは、世の中の、建築も含め形や色や質感、そういうものに関心を持つということでもあって、そうなってくれないかな、という思いを僕もいつも抱いています。そういうものと、この新福岡県立美術館のあり方は関係してくるんじゃないかと思う。 ただすごいコレクションがありますというだけじゃなくて、この美術館が人間の認識とか、世の中の見方を変えるような場所になってほしいと思って、佐藤さんにお声掛けをさせていただきました」と熱く語ります。

佐藤さんは隈さんのプレゼンテーションに「隈さんの建築は、その“場”や“環境”そのものから引き出されていく。そのあり方に、ものすごく共感するところが大きいんです。僭越ながら自分も、自分が置かれた場からその環境を見つめて、何をやるべきなのか考える。隈さんの建築の仕事も、その『何をやるべきなのか』というところに集約されていく。『やりたいこと』が形になっていくクリエイターも多いと思うのですが、隈さんのいろいろな建築を見ると、スタイルありきというよりは、もっと思想や哲学のところに重心があって、それはやっぱりその“環境”から導き出されていかれているように思います。
今回でいえば、アーバンスリットだったり、メディアヴォイドだったり、日本庭園との関係だったり。いずれもこの場でしかありえないものを浮かび上がらせる。そういう姿勢を今回もすごく感じています。だから楽しみにしているんですけど、今回は外から眺めて楽しんでいるだけではいけないので(笑)、一緒に中に入らせてもらって、シンボルマークなどを考えなければいけない。シンボルマークっていろんな考え方で作ることができるものでもあるので、後半のトークではその辺もお話しできたらと思います」
ここで休憩をはさんで後編へ。休憩中に参加者の皆さんは、佐藤さんからのお題「私にとってデザインとは〇〇です」への回答と、隈さんと佐藤さんへの質問を記入し、ロビーにあるボードへたくさん貼り付けていました。







(後編へ続く)