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インタビュー
選定委員会 宮城委員長に聞く、選定過程とこれから
2023.04.15
2023.04.14
この「できるまでサイト」では、私たち新県立美術館建設室が、サイトをご覧いただいている皆さんにより深く知っていただきたい! と思うトピックについて、外部ライターによる取材記事を不定期で発信していきます。
第2回は、設計者選定プロポーザル公開二次審査の詳細です。
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新しい福岡県立美術館の基本設計に取り組む設計者を選ぶ、「新福岡県立美術館整備事業基本設計プロポーザル(*1)」の公開二次審査が、去る2023年1月21日(土)に西鉄ホールで開催されました。
*1「プロポーザル方式」…業務の委託先や建築物の設計者を選定する際に、目的物に対する企画を提案してもらい、その中から提案を行った者を選定・契約する。提案内容に拘束されるのでなく、提案者を選定する方式のこと。
2022年11月28日に実施された一次審査には、全国から39者にも及ぶ提案者のプランが揃い踏み。そのうち以下4組の候補者が二次審査へ進出することとなったのでした。
(五十音順)
今回の二次審査では、4組の候補者によるプレゼンテーションと質疑応答によって、最優秀者と次点者が審査・選定されます。なお、今回も一次審査に続き、7名の選定委員による審議のようすを一般の方々も傍聴参加できる「公開型審査」として実施されました。
区 分 | 氏 名 | 分 野 | 所 属 |
委員長 | 宮城 俊作 | 都市デザイン | 東京大学大学院 教授 |
副委員長 | 小林 正美 | 建築 | 明治大学 教授 |
委員 | 稲庭 彩和子 | アートコミュニケーション | 独立行政法人国立美術館 本部主任研究員 |
内田 まほろ | ミュージアム | 一般財団法人JR東日本文化創造財団 高輪ゲートウェイシティ(仮) 文化創造棟準備室長 | |
坂井 猛 | 都市計画 | 九州大学大学院 教授 | |
島 敦彦 | 美術館 | 国立国際美術館 館長 | |
中村 拓志 | 建築 | 株式会社NAP建築設計事務所 代表取締役 |
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進行予定表
12:00 開会 主催者あいさつ・事務局説明
12:10 提案者によるプレゼンテーションおよび質疑応答
15:20 休憩
15:40 審議・採点・集計
17:00 結果発表
17:30 閉会
はじめに宮城委員長と主催者(福岡県)が挨拶を済ませると、続いて4組の提案者によるプレゼンテーションの発表順が告示されました。
発表者① : SUEP・昭和設計共同体
発表者② : 株式会社 AS
発表者③ : 株式会社 隈研吾建築都市設計事務所
発表者④ : 西澤・EIKA studio 設計共同体
1者あたり20分のプレゼンテーション+20分の質疑応答 × 4組という、前回にも増して重量級の審査会。会場にも静かな緊張感が漂うなか、いよいよ審査会のスタートです。
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まずは1組目、SUEP・昭和設計共同体によるプレゼンテーションです。
「人を誘い、森に溶け込むアートリボン」をキーワードに、美術館を「都市・公園・庭園と関係を紡ぐリボン状のアート空間」として提案されました。一般の方々が利用する県民ギャラリーについてはその活動が公園へと染み出し、街にまで接点を開いていくようなプランが提示されたほか、日本庭園については既存樹木を徹底分析した緻密な提案がなされる場面も。プレゼンテーションの終わりには、美術館への入館から館内での様々な場面を経て、最後に大濠公園を展望するまでの体験をひと続きに想像させる、質感豊かな動画を披露。思わず一同見入ってしまうほど、強い印象を残しました。
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続く2組目は、株式会社 ASによるプレゼンテーションです。
こちらのキーワードは「みぎわの庭、くくりのミュージアム」。1925年当時の大濠公園の設計図や、本多静六(大濠公園設計者)と中根金作(日本庭園作庭者)が日本庭園に込めた当初のビジョンから解き起こし、公園と庭園の関係や美術館のあり方を再整理していく、きわめて丁寧な提案です。ICOM(国際博物館会議)によって新たに採決された「ミュージアム」の定義を踏まえた計画に加え、現美術館のコレクションを直接理解して展示室に落とし込むプランニングは、プレゼン後の質疑で委員から「これまでに例がない、非常に有り難い提案」と感謝の言葉が飛び出すほどでした。
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続いて3組目のプレゼンテーションは、株式会社 隈研吾建築都市設計事務所です。
キーワードを「大濠公園と街をつなぐ雁行・ヴォイド・グリーンイーブス」と設定。国体道路側から大濠公園への動線を意識した南北の軸を「アーバンスリット」と定義。さらに街とアート、日本庭園と美術館をつなぐフレキシブルな吹き抜け空間を「メディアヴォイド」として、直交する2軸の空間からなるプランを提案されました。県産材の杉やヒノキを取り入れた重層のひさし「グリーンイーブス」と「日本庭園の方へ溶けていく建築」という、“アイコン性”と“現存環境との調和”の双方を意識した計画にも、プレゼン後の質疑において評価のコメントが寄せられました。
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最後、4組目のプレゼンテーションは、西澤・EIKA studio 設計共同体です。
「原景の庭」をキーワードとしたプレゼンテーションでは、遠景、中景、近景と、距離ごとの「景」別にランドスケープと建築のあり方が提案されました。さらに美術館本体については、従来のように大きく堂々とした美術館ではなく、分節された小さな場所・シークエンスの集積によって全体を構成するという意欲的なプランを提案。これにはプレゼン後の質疑でも「これからの美術館を考えた時に、小さなシークエンスを束ねる、プロジェクトベースの美術館というあり方に大変共感した」「大きな建築ではなく、離散的な、まるで庭を巡るような、新しい時代の建築」といった評価の声も。
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こうして4者のプレゼンテーションと質疑応答が終了。3時間に及ぶ濃密な提案の連続で、会場に集まった観客の脳内回転数もオーバーヒート寸前!20分の休憩をはさんで、いよいよ最後の審議へと移っていきます。
まずは各委員がひとりずつ、このあとの採点審査に向けた自身の評価基準を述べた後、7名の委員の手元に採点表が配布されます。
委員から採点表が回収され、待つことおよそ15分。いよいよ採点結果が発表されます。
集計の結果、最高点を獲得した1者に加え、僅差(満点の5%以内)の点数を獲得したもう1者がいるということで、2組の候補者が発表されました。
発表者2: 株式会社 AS
発表者3: 株式会社 隈研吾建築都市設計事務所
これによって、最後の審査はこの2組の候補者による決選投票となります。委員7名のうち、過半数の票を獲得した候補者が最優秀者となります。
再び委員7名に記入用紙が配布され、一人ずつ用紙が回収されていきます。
再度の集計完了まで、待つこと数分。
会場にも緊迫した空気が張り詰めるなか、いよいよ発表の瞬間がやってきます。
決選投票による集計の結果、
発表者2: 2票
発表者3: 5票
として、以下の結果が発表されました。
最優秀者: 発表者3 株式会社 隈研吾建築都市設計事務所
次点者: 発表者2 株式会社 AS
その後、最優秀者となった隈研吾建築都市設計事務所の採点結果の内訳も、会場画面に掲出されました。
主題1 公園と一体になった美術館 133/150
主題2 県民が親しみ、誇りを育む美術館 122/150
主題3 日本庭園の活用と再整備 80/100
主題4 施設整備に必要な基本的性能 83/100
合計 418/500
以上をもって審議結果の発表は終了。
最後に、委員がひとりずつ、各提案のどこを評価したかについて意見を述べた後、宮城委員長による閉会の挨拶をもって、およそ5時間にわたる公開二次審査が終了したのでした。
なお審査会の終了後には来場者に向けて、4組がプレゼンテーションで利用した提案ボードと模型見学時間が設けられました。それら一つ一つをじっくり見つめ、互いに感想を語り合う会場の様子は、これから皆で育てる新県立美術館の種が早くも芽吹き始めたような、活き活きとした一場面となっていました。
今回のプロポーザル審査にまつわる結果報告書や議事要旨、講評について、より詳細にお知りになりたい方は、ぜひ以下のリンクよりご確認ください。
→ 「新福岡県立美術館整備事業基本設計業務」公募型プロポーザルの実施※県公式HPでの掲載は終了しました