レポート

新県美デザインワークショップvol.2~隈さんと考えよう~【前編】(1/3)

2023年11月23日(祝・木)、西鉄ホールにて「新県美デザインワークショップvol.2~隈さんと考えよう~」が開催されました。今回も、募集定員200名に対し300名以上の応募が集まるという注目度の高さ。抽選を勝ち抜いた県美ラバーの皆さんが会場に集結しました。

6月に開催されたワークショップvol.1から続けて参加された方も多く、開館は2029年であるにも関わらず、確実にこの福岡に「チーム新県美」のムードが醸成じょうせいされつつあることがうかがえます。

今回のvol.2も、前・後編の2部構成。前半は新県美の設計者・隈研吾さんによる設計プランの再説明と現状の進捗しんちょく報告。そして後半には、会場に集まった皆さんと一緒に、新県美の特徴である「メディアヴォイド」「アーバンスリット」などのあり方を考え、隈さんと意見交換を行うグループワークを行いました。

まずは主催者を代表して、福岡県新県立美術館建設室の楠井隆志参事より挨拶。熱気あふれる会場の様子に新県美への関心の高さを感じつつ、隈さんと直接関わりを持ちながらみんなで一緒に美術館をつくるこのワークショップをぜひ楽しんで欲しい、というメッセージが伝えられました。

そしていよいよ隈さんと、隈研吾建築都市設計事務所から5名のスタッフが登壇です。

 今回もたくさんの方がご応募いただいたようで、お休みの日にも関わらずこんなに集まっていただき、本当にありがとうございます。1回目のワークショップは割とこちら側からの発言を皆さんにお聞きいただく時間が多かったのですが、今回は皆さんと一緒に考え、色んなアイデアを出していただけるようなワークショップに出来たらと思っています。

いま新県美は、2024年3月までを基本設計(大まかな仕様やイメージを決める設計)の段階としており、この期間に今日も含め2回のワークショップを開催することができました。来年度は実施設計(基本設計をもとに詳細の施工プランを決める設計)に入っていくのですが、この期間にも引き続きこういうワークショップをやれたら良いなと思っています。

今日のワークショップは、グループワークが特徴です。5つのグループに分かれて、それぞれのグループにうちの事務所から5人のスタッフがそれぞれ張り付いて、皆さんと一緒に考えるかたちで進めてみます。また、グループワークに参加できない後席の方たちも一緒に考えていただける仕掛けも考えてあるとのことで、僕もこのやり方は初めてなのですが、とっても楽しみにしています。

今はもうハード/ソフトを分けて考えるのは難しい時代です。今日のワークショップではハード面もソフト面もあわせて「ここでどんなことが起きたら良いか」「どんなアートやパフォーマンスが見られたら良いか」みたいなことも含め、色んなアイデアをもらえたら良いなと思います。みなさんと楽しい会にしていけたらと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

隈さんの挨拶のあとには、隈研吾建築都市設計事務所でこの新県美プロジェクトに関わる名城さん、大田さん、田島さん、寺澤さん、渡海さんの5名が一人ずつ挨拶。「福岡出身、皆さんと同じアビスパファンです!」「出身は大分で、九州人として皆さんと一緒にこの空間を良いものにできるよう一緒に考えたいと思います」など、どなたも身近に感じられるエピソードを交えた自己紹介で、会場の空気がほぐれていきます。

まずは前半戦。現在進行中の新県美のプランについて、隈さんによるプレゼンテーション。初めての参加者も置いてきぼりにならぬよう、隈さんからはプロポーザル時点の提案内容から順を追って説明がありました。

この記事では、隈さんのプレゼンテーションをダイジェストでご紹介します。
(プロポーザルの提案内容についてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ6月のワークショップvol.1のレポートもあわせてご覧ください。)
 

新県美の特徴

新県美の特徴は、まず大濠公園からの視点。大濠公園は、日本を代表する都市公園のひとつであり、造園界の神様とも言われる本多静六が手がけた。本多先生による公園の特徴は、でっかい発想。たとえば彼が手がけた明治神宮の森には当時世界最先端の植林技術を導入し、わずか100年未満で原生林のように豊かな森を育んだ。そうした大胆な発想を持つ本多先生による、迫力ある大濠公園に面して建つ美術館というのが、新県美のひとつの特徴。

公園と反対側には国体道路。現在はこちらの通りと公園との関係は切れており、分断されている。国体道路側に住む近隣住民からも「大濠公園は他人の家みたい」という声。現在、新県美の建設予定地に建っている福岡武道館は昔ながらの公共建築のつくりであり、まだ「まちをつなぐ」意識はなかった。今回の新県美ではそれらを繋ぎ直すことを目指す。

アーバンスリット。美術館と公園を南北に貫き、六本松—大濠公園—西公園をつなぎ直す大きな空間であり動線。美術館自体を人間の通り道にしてしまう考え方。これまで美術館は貴重なものを守るところだから、人が通り抜けることは好まれなかった。しかし現在では、美術館自身がもっと人々に親しまれるために、通り道なんかもつくってみるような大きな時代と発想の変化がある。それを思い切ったかたちで採用したのがアーバンスリット。

雁行。段々状に大きな箱を小さな単位に分節する手法。日本でも庭と建築を繋ぐとき伝統的に選ばれる手法で、代表的な例で言えば桂離宮。今回、新県美は大濠公園だけでなく日本庭園とも繋がなくてはいけない。そのための雁行プラン。コーナー(角)をいっぱいつくると、繋がりが生まれてくる。

深いひさし。もうひとつの特徴。今までの公共建築はコンクリートの箱状のものばかりで、庇を出すことはやらなかった。しかし、たとえば桂離宮もそうであるように、日本の伝統的な建築は、庇を出すことで庭と建築を繋いできた。雨が多く、夏は暑い日本においては庇が効果的。庇には木を使う。日本の建築では庇に木を使うことが多い。最古の木造建築と言われる法隆寺が1400年も持っているのは、木の庇によるところも大きい。その知恵を新県美にも取り入れる。

メディアヴォイド。建物の真ん中に、ガラスの筒のような大きな吹き抜け空間が、東西にドーンと貫く。同時にこれは建物と日本庭園を繋ぐ、建物の軸にもなる。「メディア」と名付けたのは、これまでの彫刻や絵画だけでなく、近年増えている先端的なメディアアート――映像や音、バーチャルリアリティやメタバースなどの作品――も展開できるようなスペースとなることも意識。館の真ん中に出来るこの大きなスペースをどんなふうに使っていくかが、新県美の大きなテーマとなる。

2つの屋外ギャラリー。美術館と国体道路との間には「けやきギャラリー」、大濠公園との間には「草香江ギャラリー」。美術館を閉じさせず、中間領域をつくる発想。美術館の中と外を繋ぐ縁側のような空間をつくり、そこもアート空間として積極的に使っていく。これも従来の美術館ではあまりやってこなかったことなので、皆さんと一緒に考えられたらと思っている。
 

周辺とのかかわり

建物の中と外に、それぞれ自由に出入りできる場所がある。新しい試み。日本庭園の側にはアートインフォメーションベース。そして美術館自体も屋根の乗っかった建物として自由に通り抜けられるアーバンスリット。これまで外だったものも中へ取り込んでいく。どんな連動があり得るかも考えたい。

日本庭園も美術館の一部として楽しめるように出来ないかと考えている。そのためにも、美術館を平面的だけでなく、立体的にも雁行させている。日本庭園側に向かって低くしていき、日本庭園と馴染ませる。これまでの公共空間のような“四角い箱”ではない。高さも威圧感が少ない。

日本庭園にいま生えている木々についてはなるべく切らずに保存あるいは移植を検討したい。切らなくてはならない木も、内装材や什器、家具などに使えないかと検討中。以前私たちが設計した明治神宮ミュージアムでも、切った木材は同じように建物へ利用させてもらった。

目の前の大きな池。ここも含めたアートイベントや展示も出来ないか。目の前にこんな大きな池がある美術館も珍しい。普通の施設では出来ないアイデアも挑戦できそう。

施設の特徴

天井の高さと照明。なるべくフレキシビリティの高い天井の仕様を目指して現在検討中。天井は、これまではカチッと作るものが一般的だったが、今回は倉庫やロフトのように“あらわし”の仕様を検討。色んな機具を自由に吊ったり、動かしたり出来る。

メディアヴォイドの天井は、光を取り込み、状況に応じて光を遮断できるようにしたい。建物の高さが20メートルくらいあるので、その高さから色んなものも吊り下げられる。どんなものを吊ったら面白いかについても考えてみたい。

施設のほとんどがガラス張り。中の活動が外から見えるようになる。「面白そうなことをやっているな」と中に入ってきたくなるような感じを目指したい。

キッズスペース、ワークショップスペース。新県美は、子どもが小さな頃から通いたくなる美術館にしたい。子どもから「美術館に遊びに行きたい!」という声が生まれたら最高だなと思っている。

多目的ルーム、県民ギャラリー。多目的ルームはガラス壁がスライド式で可動し、メディアヴォイドと一体に出来る仕様。県民ギャラリーはアマチュア、学生、専門外の方も活動できるスペースになると良い。

メディアスリット。展示室同士の間に、ちょっとした隙間の空間をつくっている。そこから大濠公園を望むことが出来る。隣の展示室へ行く間に公園が見えたり、息抜きをしたり。このスペースもどのように使ったら面白いかを考えている。展示ではなく、休憩だけに特化してみても良いかもしれない。他の美術館にない、特徴的な空間になるのでは。

展示室同士をくっつけて、ひと続きの空間にすることもできる。収蔵庫は高潮ラインも想定して、それ以上の高さに設置。

常設展示室と企画展示室は、国宝級も持って来られるスペックに。文化庁が定める温・湿度管理や耐震強度などの厳しい条件をクリアして、国内だけでなく海外からも国宝級を持って来られる施設にしたい。

3階のライブラリー。たくさんの美術関係の書籍に、隣にはカフェやグリーンルーフ(屋上緑地)もある。本を持ち出してくつろげるようにできないか。また、3階までの動線には階段だけでなくエスカレーターも導入できないか検討中。(エスカレーターといえばデパート、という当時の先入観から)昔は美術館にエスカレーターはなかったが、1980年代にMoMA(ニューヨーク近代美術館)が導入して以来、世界中の美術館で導入されるようになった。

ライブラリー横のカフェとグリーンルーフの眼下には、日本庭園が望める。ちなみにこの日本庭園も、世界で“日本一の日本庭園”と評される足立美術館の庭園をつくった中根金作先生の代表作。そんな素晴らしい日本庭園を眺められる屋上は、最高に気持ち良い場所になると思う。福岡のまちもバーっと見ることが出来る。

ショップとレストランは、美術館の外にガラスの箱状の独立型で構える。美術館が閉館した後も、ショップとレストランは営業が続けられる運用も想定しておけば、そこをめがけて夜も足を運ぶ人々が期待できる。どういう食べ物があれば福岡らしいか?なども含め、皆さんと一緒に考えたい。

といった内容で、隈さんによるプレゼンテーションが終了。続けてvol.1に続き進行役を務める三好剛平さん(三声舎)と、以下のようなやり取りが交わされました。


三好 前回から新たに加わった進捗報告も含め、期待感の高まるプレゼンテーションを今回もありがとうございました。さて、お話しいただいた内容について少しだけ。まずはアーバンスリット。これまでの国体道路側と公園が隔てられていた印象から、アーバンスリットが貫通することで、ぐんと風通しがよくなりそうですね。

 そうですね。日本各県いろんな美術館があるけど、こんなに抜けが良いものは、なかなか無いんじゃないかな。

三好 もうひとつはメディアヴォイド。先ほどのご説明では「色んなメディアのアートを受け止められる場所」としてご紹介されていましたが、僕はお話を伺うなかで、ここにはもう一つの意味があるのではないかと思いました。

それはメディアの語意である「媒介」という点です。つまりこの空間が、美術館と公園を、あるいは美術館と日本庭園を、そして美術館と訪問者を、それぞれ「媒介」するものとして機能する。隈さんの言葉をお借りすれば、中間領域の役割を果たすヴォイド(=空洞)として、このメディアヴォイドが機能する風景を想像しました。

 そう、メディアって色んな意味があるよね。人によってメディアって言葉の意味の引き取り方も違うだろうし、それだけここは何でも自由にできる場所になればと思っています。これから時代が変わっていくなかで、アートのありかたも、人間の生活スタイルも変わっていくはず。そういう何十年もの変化——僕は何十年といわず百年くらい使ってもらいたいと思っていますが(笑)——に対応できる「メディアの空間」となることを、この場所には期待したいと思っています。

三好 多様な用途や目的に対応できる、フレキシブルで新しい美術館像ですね。今から完成が待ち遠しくなります。


これにて前半が終了。

ここから、来場者と一緒に考え&対話を重ねていくワークショップの後半へと流れ込んでいきますが、その様子は次のレポート記事【中編】でご紹介します。どうぞ引き続きお楽しみください。

<次の記事>新県美デザインワークショップvol.2~隈さんと考えよう~【中編】

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